間借りでカレー屋を始めてみて、いい感じだったら実店舗を持とうかなあ。と思っている人、けっこうな数いるんじゃないでしょうか。
まずはリサーチということで間借りカレーついて検索してみると、成功例やアドバイスはいろいろ出てくるけど、失敗例はあまりないですよね。
それもそのはず。失敗した場合には誰にも注目されないままに閉店しているケースが多いと思いますので、失敗談はあまり表に出てこないんじゃないかなと思います。
そこで!
2022年1月から8月まで間借りをしていた「スパイスカレーizon」はどういう状況だったのか、改めて振り返ってリアルな情報をお届けしたいと思います。
これから間借りを始める人、いつか始めようと思っている人、迷っている人には何かしら参考になると思いますので、最後まで読んでいただけると嬉しいです。
なお、このブログは、オーナーの吉藤の状況を近くで見ていた中山(当時はizonと全く関係のない会社員・現在はizonのスタッフ)が書いていて、吉藤君に監修してもらっています。
当人の記述ではありませんが、なるべく真に近いものをお届けできればと思いますのでよろしくお願いします。
さて、まずは、「間借り」とは一体どういう営業形態なのか、図で説明しましょう。
間借りとは
青色の文字が双方のメリットです。
間貸しする側は、空き時間を貸すことによって収入が増える。
間借りする側は、設備を使わせてもらえるので、あまりお金をかけずに開業できて、お客さんを紹介してもらえる。
ということですね。お互いWINWINでいいことばかりのような気もしますが、もちろん双方にデメリットもあります。
間貸しする側が「来月からは貸しません」と宣言したら、間借りしている側は継続したくてもできません。
間借りする側が食中毒を出してしまった場合、その責任は、間貸ししている側が問われることになるので、営業停止などの処分を受ける可能性があります。
営業許可もシェアしているという扱いですね。
これが、いわゆる「間借り」と呼ばれる営業形態で、間貸しする側と間借りする側双方に信頼関係がないと継続的な営業はなかなか難しいのが実情だと思います。
間貸しする側が神経質な人で、間借りする側がテキトーな人の場合を想像していただければ、うまくいかないケースは簡単に想像できるかと思います。
間貸しする側に何か気に入らないことがあれば、それで終わり。なかなかシビアな営業形態。それが「間借り」なのです。
「スパイスカレーizon」が間借りを始めたきっかけ
2021年、izonのオーナーの吉藤君は10年ほど勤めたミリタリー系アパレル卸会社を脱サラし、古着屋を立ち上げます。
そうして始まった「used clothing izon」は、上京区の住宅街の中ほどにある古いマンションの路面の1階、8畳ほどのテナントで営まれていました。それと並行して、劇団の舞台衣装を担当するなどして、個人事業主としての生活をスタート。
ただ、オープンしたての古着屋にお客さんはそんなに来ないし、衣装の仕事も常にあるわけではありませんでした。
当時のスケジュールはこんな感じです。
思うように収入を得ることもできず、貯金を削りながら暮らしていた吉藤君はある日、
「朝から昼にかけて時間あるから、ランチタイムにカレーかラーメンやって、15時くらいから古着屋やったらええやん」
と思いつきます。
「ラーメンは麵打ったら粉まみれになって古着屋に影響出そうやからカレーにするか」
間借りでカレー屋を始めようと思ったのはただそれだけの理由です。
事業計画もなければ、経験もない。なんとなくの思いつきで走り出したのです。
ただ、何のアテもなくやり始めたわけではなく、古着屋として借りたテナントの隣では、10年来の友人がウーバーイーツメインのタイ料理屋を営んでいたので、間借りしやすい環境にはありました。
その状況も、思いつきを行動に移せたことに大きく影響しています。
旧知の友人に間借りさせてほしいと打診。そして快諾。
友人のタイ料理屋はウーバーイーツがメインだったため、店内の飲食スペースをあまり使っていなかった、という状況も渡りに船でした。
それから自宅で初めてスパイスカレーを作り、1月ほど練習して、ある程度形になったところで、間借り営業をスタートさせました。
決定的な失敗 その1
さて、ここまでは順調に進んでいるように思えますよね。
間借り先のオーナーは旧知の仲で、先ほど説明したデメリットはなさそうですし、古着屋の隣で間借りできるわけですから、無駄な移動の時間もありません。
これまで持て余していた時間を有効活用して、新たな収入を得る。
その試金石として、全身全霊でもって間借りスパイスカレー屋に打ち込む。
なんだか情熱的ですし、外野からすると応援したくなるような感じですが、吉藤君は大きな過ちを犯していました。
というのも、これまでこのブログに書いてきたすべてのことを、ろくに家族に相談せず、ほとんど独断で推し進めていたのです。
決定的な失敗その1は、「誰にも相談せずに間借りを始めた」です。
吉藤君は、家計をともにする奥さんに対して、会社を辞めること、古着屋を始めること、間借りカレーを始めることを、いつも事後報告のような形で伝えていました。
奥さんからすると、意見を伝えたり事業計画を立てたくても、勝手に始めちゃってる訳ですから、怒りを通り越して呆れるよりないですし、そもそもまともに相談するそぶりさえない夫に対して不信感が募るのは当然で、吉藤君が頑張れば頑張るほど溝は深まるばかりだっただろうと推察されます。
これから続いていく人生において、夫との関わりあいの中で万事がなんの相談もなく進んでいく苦痛たるや、想像に余りある苦しみです。
古着だカレーだ間借りだと盛り上がる前にいちばん大切なのは、家族の理解だと思います。
もし、これを読んでいるあなたが、これからなにかを始めようと思っているのなら、必ず自分に近い人の了解をとってから始めるようにしましょう。
話すのが苦手なのであれば、文章にしてみましょう。
計画を立てるのが苦手なのであれば、一緒に計画を立ててもらいましょう。
思いついたことを素晴らしいと思ったら、素晴らしいかどうか聞いてみましょう。
「家族なんだから協力してくれるはず」という思い込みはいけません。
まずは思っていることを何らかの方法で伝えてみることから始めましょう。
アイデアが膨らんだり、改善点が見つかったり、企画がブラッシュアップされることもあると思いますし、何より、うまくいけば、自身の事業を手伝ってくれる人が増えるのですから、こんなに心強いことはありません。
失敗からの教訓は、勝手に始めない。まずは話し合いが大事。ということです。
決定的な失敗 その2
2022年1月からスタートした間借り営業ですが、1日のお客さんの数でいうと、1~6人くらい。
なんのツテもなく始めたにもかかわらず、来客数がゼロじゃないのが凄いと思いますが、うまくいったとはいえない数字です。
当時を分析すると、
- なんとなくInstagramでお店のカレーの投稿をはじめた
- 当時のInstagramのアルゴリズムは「映えているごはん」の投稿を優遇していた
- 当時のInstagramにおいてはハッシュタグが有効だった
- その結果、izonの投稿が京都のコアなカレー好きな人に認知された
というだけの話で、たまたまが重なってゼロじゃなかっただけのこと。
決定的な失敗その2は「行き当たりばったりの無計画な運営」です。
上のイラストはPDCAサイクルです。
「P:計画」→「D:実行」→「C:評価」→「A:改善」を正しく繰り返して、業務効率をよくしていきましょう。という考え方で、世界中の工場で標準語になったKAIZENはここからきています。
当時のスパイスカレーizonをこのサイクルに当てはめてみると。
- 思いつきで始めたので、そもそも「P:計画」がない。
- ゆえに、「D:実行」の内容が「C:評価」できない。
- よって、「A:改善」のしようがない。
という感じでした。
無計画に何かを始めるということは、この状況に自ら飛び込んで、根拠のない楽観的な願望に身をゆだねるということです。
お客さんがあまり来ない原因を考えてみても、カレーが悪いのか、インスタの投稿が悪いのか、お店の外観が悪いのか、自分の接客が悪いのか、まったく見当がつかないので、吉藤君は、がむしゃらに何かをやるしかありませんでした。
「京都にたくさんあるカレー屋の中で生き残っていくには、オリジナリティのあるカレーを作るしかない!」
そう決意した吉藤君は、スタンダードなカレーを捨て、独自路線の創作カレーを提供し始めます。
ここでちょっと冷静に考えてみましょう。
本当に、オリジナリティのあるカレーを作るしかなかったのでしょうか?
もっと他にやるべきことがあったかもしれません。
あなたならどうしますか?
間借りは計画的に
当時の状況において、できそうなことをいくつか挙げてみます。
- ニーズやトレンドを調査する
- 繁盛しているカレー店のいいところを参考にする
- SNS集客のセオリーを勉強する
- 売り上げ目標を数値化し、達成までの期限を設ける
- 近隣へポスティングする
- 人脈を頼る
- 同業者に教えを乞う
ぱっと思いついたものを並べてみました。
(1.2.3.4.)
リサーチや目標設定をしても、お客さんが増えるわけではありません。しかし、「P:計画」→「D:実行」→「C:評価」→「A:改善」→「P:計画」・・・と循環させるPDCAサイクルを回すためには必ず必要なことです。
飲食店の集客やマーケティングに関する書籍やkindle本は数多く出版されています。レビュー数が多く、評価も高いものを参考にしてみることをお勧めします。
(5.)
アナログな作業ですが、お店の周辺への宣伝も大事です。マナーや法律を守った上で自店舗の宣伝を行いましょう。
(6.)
カレーを作るだけでも大変な仕事量ですから、その他の全ての作業を一人でこなしてくのはかなり大変です。家族や友人の力を借りることができるなら、それに越したことはありません。
洗い物をしてくれる人がいるだけでも、全体の自身の作業時間はかなり短縮され、他のことに時間が割けるようになります。
(7)
現在進行形でお店を経営している人の意見はとても貴重です。
自身の考えと違うところがあったとしても、何らかの示唆を与えてくれるはずですので、もし、通っているお店があって、そこのオーナーとお話できる環境にあるならば、営業の迷惑にならないタイミングで相談してみるのもいいと思います。
カレーの方向性を変える→お客さんが増える、というのは一人で悩んで出した結論でしたが、それによって急激に状況が改善することはありませんでした。
古着屋の空き時間を有効に使って収入を得るはずの間借りカレーでしたが、仕込んだカレーもかなりの量が売れ残り、捨てるのがもったいないので自身で食べ続けた結果15キロほど太ってしまい、金銭面でも赤字を拡大することになりました。
スパイスカレーizonが間借り8か月で実店舗を持つまで(前編)のまとめ
2022年1月~4月までの「スパイスカレーizon」のリアルな間借り営業を、改善点などを交えながら振り返ってみました。
これ以降、いろいろと工夫して状況を改善していき、10月には実店舗をオープンすることになるのですが、4月~10月までのことは(後編)としてブログに書きたいと思います。
(後編)では、「スパイスカレーizon」を世間に認知してもらい、店舗へと足を運んでもらうために行った、ブランディング・マーケティングについてや、オーナーである吉藤君がどんな仕事をしていたのか、などについて詳しく深堀りしていきたいと思います。
最後にお知らせ。izonのこだわりストアで取り扱いしている「カレー屋の支え」は、このブログの著者である中山が、SPICE CHAMBER、サンライト、Spiceカレーfam、INDIA GATE、スパイスカレーキテレツ(敬称略)、京都の人気カレー店の店主を支える人を取材し、インタビューを元に書き下ろした本です。
カレー屋の支えkindle版もございます。
間借りを志す人には参考になるところも多いと思いますので、ぜひ読んでみて下さい!